- 静かだが揺るぎない感情の交錯
- 「事態の全貌が明らかになった時、読者は血も凍るような恐怖感を覚えることになる。魂の奥底にまで届くような衝撃がある」。脳科学者の茂木健一郎は、カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』の書評でこのように書きました。あらすじに注目した書評としては、あながち的外れでもないのでしょうが、私個人がこの作品に抱いた印象は大きく異なります。運命を強制された人々の心の ...
- この物語に出会えたことに感謝
- よくある小中学校学園物として、物語は始まる。誠実に、丹念に、物語はつむがれる。だが、「提供」という不可思議な(しかしある予感を持たせる)概念が、次第に物語りに影を落とす。やがて、「ポシプル」という言葉が、予感めいた影に実態を与える。そして、とうとう「クローン」という、身もふたもない設定が明らかになる。 でも、物語は急がない。ヘールシャムの提供者ジュ ...
- 人は生きる、それぞれの「自分勝手な解釈」で
- SF的な形式をとりながら、人間のエゴイズムについて掘りさげた小説だなあと、私は思いました。『日の名残り』にも共通する、知り合いの思い出話を聞くような文章で、すんなり読み進んでいけますが、数ページでその異常さに気づき、それは章がひとつ進むごとに増していきます。「人間」でありながら人間ではないキャシーHたちと一緒に、彼らを生み出した「人間」の善良さに期待して ...
- 無慈悲で、残酷な世界
- 「日の名残り」と同じ作家が書いたとは思えない作品でした。押さえられた、抑制の効いた文体で、完璧なストーリー構成でした。個人的には、ブッカー賞を受賞した「日の名残り」より、こちらの作品の方が良かったと思います。人格を認めらず、物体としてしか扱われないクローンたちが、その事実を再認識した時、何を考えたのでしょうか。キャスとトミーの別れのシーンは、淡々と書 ...
- 萩尾望都でいいや
- 丁寧に作り込まれた作品ですので(3ページ目あたりでSFネタがわかってしまうのは別として、というかそれが作品の価値を貶めるわけではないので見逃すこととして)最後まで読み切ることはできますが、既にこの手の世界観は萩尾望都によって描かれてしまっているように思えた私にはあまり魅力がありませんでした。
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